【前回のあらすじ】
民法司法令和3年13問肢エを検討しました。前回は,前提知識を確認しました。その上で,本件では特段の事由があるので,消滅しないという結論になるのですが,なぜかを改めて整理することになったのでした。
それでは、はじまりはじまり。
スク東先生:こんにちは。調子はどうですか。
スク東先生:そうですか。それはよかったです。とにかく,淡々と続けていきましょう。
前回に引き続き,民法司法令和3年13問肢エです。
「エ.AがB所有の甲土地を占有して取得時効が完成した後,所有権移転登記がされることのないまま,甲土地にCのための抵当権が設定されてその登記がされた。Aがその後引き続き時効取得に必要とされる期間,甲土地の占有を継続し,その期間の経過後に取得時効を援用した場合は,AがCの抵当権の存在を容認していたときであっても,Cの抵当権は消滅する。」
前回は,時効完成後の第三者の問題と,自己の物でも取得時効が成立すること確認しました。
スク東先生:そうですね。(詳細は,こちら)
はい,そして,本件では,特段の事由があるから消滅しないということでした(最判平24.3.16)。このことを確認するのが今回でした。
スク東先生:いいですね。それで,本題,整理されてきました?
スク東先生:なるほど,難しいですからね。では,一緒にやってみましょう。結局,特段の事由の背景には,397条が関係します。
(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
第397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
ふーん,Aには本条が適用されないということでしょうか。
スク東先生:はい,397条が適用されると,抵当権が消滅しますからね。
なるほど,しかし,どうしてしょう。Aは,397条でいう「債務者」でも抵当権の設定者でもないと思うのですが・・・(本件ではB)。
スク東先生:ええ,確かに,その通りなんですが,抵当不動産の第三取得者にも,本条が適用されないという考えがあります。
へえ,話が難しくなってきました。確かに,「抵当不動産の第三取得者」は,「債務者」でも「抵当権設定者」でもないです。それなのに,どうしてなんでしょう。
スク東先生:はい,これに関しては,イメージが大事になります。仮に,「抵当不動産の第三取得者」に397条が適用されると,「抵当権者」(本件C)が害されることになりますよ。
ふーん,確かに,抵当権不動産は,設定者と第三者の取引できますね。抵当権者のコントロールできない事由で,抵当権が消滅するのはまずい。
スク東先生:はい,「抵当不動産の第三者取得者」は,抵当権設定者の立場を承継したと理解すればよいでしょう。
スク東先生:はい,その上で,「抵当権の存在を容認していた」本件の場合,Aの状況が,「抵当不動産の第三取得者」に近いということなんです。
ふーん,確かに「抵当不動産の第三取得者」は,積極的に抵当権の存在を知っています。もちろん本件のBとAには直接取引はありませんが,Aが時効取得した結果,Bの権利が反射的に消滅する関係に立ちます。そう考えると,ABは,物権変動の「いわば当事者」とみれますからね。
スク東先生:そうなんです。そのように整理できれば,判例がいう特段の事由も397条に配慮したと考えられるでしょう。
なるほど,言っていることは,わかった気もするんですが,どう考えても難しいです,これ。
スク東先生:ですよね。だから,避けないといけないんです。結局,今の話も,後知恵です。したがって,今回の話は,あくまでも参考程度でいいと思います。
わかりました。あんまり,難しいことは考えるな。仮にでてきたら後回しにするくらいでいいんですね。
スク東先生:はい,ぜひそうしてください。変に完璧を求めると,まずい方向に行ってしまいます。くれぐれも,気を付けましょう。それでは,今日も時間となりましたので,これで終わりします。この続きは,また来週お楽しみに。