【前回のあらすじ】
刑法令和2年第2問肢1を検討することになりました。横領罪が未遂はないのですが、犯罪の成立時期として実行の着手の考え方が使えるのでないかという話になりました。その辺りの話を整理していきましょう。
それでは、はじまりはじまり。
スク東先生:こんにちは、東さん。調子はどうですか。
スク東先生:なるほど、そうですか。では、早速、前回の肢1の続きいきましょう。
〔司法試験令和2第2問・予備試験令和2年8問〕
横領の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものを2個選びなさい。
1.甲は,乙からの委託に基づき,同人所有の衣類が入った,施錠されていたスーツケース1個を預かり保管していたところ,衣類を古着屋に売却して自己の遊興費を得ようと考え,勝手に開錠し,中から衣類を取り出した。この場合,遅くとも衣類を取り出した時点で不法領得の意思の発現と認められる外部的行為があったといえるから,甲には,横領罪が成立する。
(他の肢は省略)
(横領)
第252条 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
スク東先生:前回は、横領罪の成立時期を検討するにあたって、未遂がないことを指摘した上で、危険犯ということも確認しました。
スク東先生:そこで犯罪成立する時期を検討するにあたって、実行の着手を意識したいとことでした。
スク東先生:そうです。ですので、結果的に危険な結果の発生したかを判断するには、実行の着手を考えればよいという説明になります。
スク東先生:えっと、東さんに、それを考えてきてほしかったんですよ。
スク東先生:いいでしょう。心を処罰するわけにはいきませんので、客観が必要なのは当然ですね。ただ、それだけだと、危険性を認定できません。どうつもりで、行為をしたことも含めて具体的危険性を判断する必要がありますね。
スク東先生:よかった。ここまで、押さえるとようやく、肢1がしっかり理解できると思います。客観、主観、計画などを総合考慮して、横領罪の法益である所有権に対する危険性は発生してますかね。
スク東先生:そうですね。まだ、甲は、衣類を取り出しただけです。この段階では、実際に古着屋やいくかどうかははっきりしません。
スク東先生:いいですね。したがって、客観的に具体的危険性がないと判断できるでしょう。よって、主観、計画があっても横領罪不成立なります。問いに対応するなら、「衣類を取り出した時点で不法領得の意思の発現と認められる外部的行為があったといえ」ないとなりますね。
スク東先生:よかった。無事検討が終わりました。この問題のテーマは各論(横領罪)の問題なのですが、背後にある総論の理解も踏まえたいですね。そうすると、理解が深まると思います。では、今日はこんなところで、終わりします。この続きは、また来週お楽しみに。